僕はクルマには「ツイている」ほうだと思う。苦労して何度も仮免を受け、やっと取った自動車免許もペーパー・ドライバーで2年が過ぎた頃、仕事を通じての友人から「ホンダの新車を買うから今乗ってるクルマを預かってくれないか」と。下取り査定もつかないサニーの2ドアだった。彼は高層住宅で2台駐車できず、数台も停められる当時の僕の庭が思い浮かんだらしい。乗るつもりも無く引き受けたが、意外に彼はこう切り出した。「5,000円であげるから、乗らないかい?」、僕「クルマを?」、友人「保険・税金は自分で払ってくれればね」、僕「5,000円でくれるの?」、友人「うん、いいよ!」、僕「・・・5,000円じゃあ悪いから6,000円払うね」。これが最初に手に入れた車だった。庭に置いてしばらく眺めていたが、ボディの色褪せが気になりだして全塗装する事に決めた。もちろん自分の手で。初めての全塗装なのに何故か自信たっぷりだった。それもデザインの仕事でスプレーガンなどの使用経験があったからだ。チラシやら新聞紙をガラス面にマスキングテープで貼り、ニッペのクルマ用スプレー缶を大量に買い込んで庭で「塗装大作戦」が始まった。洗濯物に飛び散らないかと近所の人々が嫌な顔をした。二本のストライプも決め、コンパインドで磨き、完成した。その夏、小樽から敦賀までフェリーに載せ家族旅行に出かけた。未だ頼りない運転の僕のサニーは高速道路で大型トラックにあおられ、何度も怖い思いをした。途中で雨に会い、マニアル・フロア・シフトの破れたカバーの隙間に走る道路面が見えてゾッとした。思い出せば、前シートを倒して後席に乗る度に床の薄い鉄板も「ポコン!」と鳴っていた。極め付けはトランクを開けた時だった。あまりにも泥が入っているので調べると、トランク内部のタイヤハウスの鉄板が錆びて穴が開き、そこから泥水が進入したことが判った。応急処置でボロ布を詰め込んで北海道に帰ってきた。怖いドライブ旅行だった。北海道の冬を何度も過ごしたボディーはいろいろ問題があったが、エンジンは古さを感じさせないほどに元気だった。この後、次のクルマ探しが始まるが、廃車同様の中古車?のトラウマで、今度は新車が欲しくなった。